沈黙を破る者たち(The Breach)
ある朝──
庵の静けさを破る怒声が響いた。
「お~い! 出てこい!」
「開けないなら、こじ開けるぞ!」
軋む音、叩かれる音。
ああ、もう戻れないのだな、と彼は思った。
扉が壊される。
複数の兵が土足で踏み込む。
彼は何も言わず、何も抗わず、ただ静かに立っていた。
「つれていけ!」
命じる声。
左右を縛られ、庵を引きずり出される。
太陽の光が、皮膚に刺さるように感じた。
まぶたが震え、顔が歪む。
「……まだ、癒えていないのだが」
山道を下る途中、彼はふと振り返った。
庵はもう見えなかった。
だが、風がまだそこに残っているように感じた。
あそこに戻ることはないだろう。
それでも、誰かがまた訪れる日が来るかもしれない。
そのとき、何も残っていない静けさが、何かを伝えてくれたらいい。
広場の中央に、十字架が立っていた。
新しく、無骨で、どこか乱暴に据え付けられたものだった。
「やはり……こうなったか」
彼は知っていた。
自分が、選ばれるということを。
あわよくば、このまま。
誰にも知られず、ただ静かに、人々の成長を見守れたなら──
だが、癒せる苦しみを、ただ見過ごすことができなかった。
「それが……わたしの弱さだったのかもしれない」
彼は、誰にも届かない心の声でそう呟いた。
月夜に外に出ることすら、人目を避けた。
木の実を拾い、薬草を集め、ひっそりと食いつないできた。
夜の静けさだけが、心に触れなかった。
光のもとに出るということは──
世界の構造に触れてしまうことだった。
その構造を、壊してはならなかった。
ずっと、そう願っていたはずなのに──
