少女と隠者(The Child and the Silent One)
カーテンの隙間から、細い光が差し込んでいた。
静かな庵の中に、その光だけが外の存在を知らせていた。
無邪気な少女との対話が始まる。
少女「ねえ、なんでおじさんは家を出ないの?」
隠者「そうだなあ……」
(長い沈黙)
「君は元気だから分からないかもしれないけど……
体の不自由な人は、元気になりたいって願うもんなんだよ。苦しいからね。」
少女「うん、そうだね。」
隠者「でもね。本当は、その苦しさは、必要なものなんだ。
苦しいからこそ、今までの幸せを思い出したり、家族の愛に気づいたりする。
過去のこと、そして“今ここ”にある幸せについても……たくさん、ね。」
少女「私はずっと幸せ! お母さん大好き!」
隠者「……うん。そうだね。よかったね。
本当に、よかった。」
「その幸せをね──
大人になると、忘れてしまうんだよ。」
少女「えー、そうなの? 私は忘れないよ!」
隠者(微笑む。少し寂しげな目で)
「うん。君は、忘れないね。……きっと、そうだ。」
しばらくして、少女がふと問いかける。
少女「おじさん、病気を治せる力があるんでしょ?
だったら、みんなを治してあげたらいいじゃない!」
隠者「……そうだね。そうしたい。
でもね、この力を使うのは、とても……苦しいんだ。」
「だから、誰かを助けようとするたびに、僕自身が壊れてしまう。
それにね……簡単に治ってしまったら、きっと人は──
自分の身体を大切にしなくなるよ。」
少女「うーん……そうなのかなぁ……
でも、おじちゃんが苦しいのは、イヤだな。」
隠者「ありがとう。君はやさしいね。」
少女「あっ、ごはんの時間だ! また来るね〜!」
少女は玄関の戸を開け、明るく走り去っていった。
その後ろ姿を、隠者はしばらく静かに見つめていた。
静かになった庵の中。
彼はベッドに身を横たえ、目を閉じる。
(本当のことは……言えない。
でも──君が、いつまでも健やかでありますように)
そう願いながら、彼はまどろみに落ちていった。
幸い、あと数日分の食料は、まだ残っている。
