光を乱さぬために（To Not Disturb the Light）
けれど──
それは、果たされなかった。
再び庵を訪れることも、
何かを伝えることも。
奇跡は、世界をゆがませる。
世界の法則に、目には見えない亀裂を生む。
奇跡は人々に依存を植え込む。
進化を、自らの足で歩む機会を奪ってしまう。
それでも──
彼は世界の意図を、
人々に伝えたかったのだと思う。
どうにかして──
気づいてほしかったのだろう。
そのために、
大きな奇跡を起こし、
命を代償とした聖者も、きっといただろう。
ドラキュラ。
それは「構造を壊さないための慈悲」だった。
人の成長を妨げぬよう、
自らの力が因果に干渉せぬよう、
「奇跡」を起こすことすら慎み、
闇に身を置いていた。
その慈悲は、やがて呪いと呼ばれた。
名を与えられ、恐れられ、誤解された。
でも──
私は、あの微笑みを覚えている。
あの人は、最後まで“誰か”を責めなかった。
たとえ、命を差し出すときでさえ。
今も、彼のような人々は存在しているのかもしれない。
人知れず、生と死の狭間に身を置き、
夜の風に溶けるように──
真のドラキュラとは、光を避けた怪物ではない。
光を乱さぬために、
自ら闇に沈んだ、ひとりの「聖者」だったのだ。
